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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)5939号 判決 1998年1月23日

大阪府<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

山﨑敏彦

大阪市<以下省略>

被告

大阪コモディティジャパン株式会社

右代表者清算人

東京都中央区<以下省略>

被告

社団法人 日本商品取引員協会

右代表者理事

右被告両名訴訟代理人弁護士

原田甫

右同

山本哲男

主文

一  被告大阪コモディティジャパン株式会社は、原告に対し、金二七五万円及びこれに対する平成五年八月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告大阪コモディティジャパン株式会社に対するその余の請求及び被告社団法人日本商品取引員協会に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の四分の一と被告大阪コモディテイジャパン株式会社に生じた費用の二分の一を被告大阪コモディティジャパン株式会社の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告社団法人日本商品取引員協会に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは原告に対し、各自、金三五万円及びこれに対する被告大阪コモディティジャパン株式会社については平成八年六月二〇日から、被告社団法人日本商品取引員協会については同月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大阪コモディティジャパン株式会社は、原告に対し、金五〇八万二三七五円及びこれに対する平成五年八月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告は、(一)被告大阪コモディティジャパン株式会社(以下「被告会社」という)の担当者から、粗糖の商品先物取引を始めるにあたり、断定的判断の提供を受けたほか、無意味な両建や反復売買、新規受託者保護管理規則、適格取引義務に違反する取引を勧められた等として、被告会社に対し、主位的に七〇九条、予備的に七一五条に基づき差損金相当額の損害賠償を請求するとともに、(二)被告社団法人日本商品取引員協会(以下「被告協会」という)が、先物取引のパンフレットに本来無意味な両建を有効な手法であるかのような記載をし、原告にその旨誤信させ、両建をさせたとして、被告協会に対し、七〇九条に基づき両建の手数料相当額の損害賠償を請求するものである。

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告は、昭和○年生まれで、コンピューターの専門学校を卒業後、昭和六〇年から技術職の会社員として稼働している未婚の男性で、本件取引以前、商品先物取引をしたことはないが、本件取引当時、投資信託をしていた(原告本人)。

(二) 被告会社は、商品先物市場における粗糖等の売買及びその媒介取次等を業とする株式会社である。

本件取引当時、C(以下「C」という)は、被告会社の本店第二営業部主任、D(以下「D」という)は、被告会社の営業課長で、両名は、原告との取引を担当していた(乙一四、証人D)。

(三) 被告協会は、商品取引所法五四条の三の規定に基づき設立され、被告会社らを含む商品取引員を構成員とする民法上の社団法人である。

2  取引の経緯(取引の詳細は、別紙取引一覧表〔以下「一覧表」という〕記載のとおりである)

(一) 原告は、平成五年三月二六日か二八日、Cから電話で商品先物取引の勧誘を受け、Cの来訪を承諾したところ、同月二九日、原告の勤務先でC及びDの来訪を受け、さらに商品先物取引の勧誘を受けた。そこで、原告は、同月三〇日、被告会社を通じて、粗糖一〇枚の買建玉を注文し(一覧表1-1の買付)、被告会社に対し、右取引の証拠金六〇万円を支払った。

(二) 右(一)の他に、右同日、原告名義の粗糖合計四〇枚の買建玉の注文がなされ(一覧表2、3-1の買付)、原告は、被告会社に対し、同年四月六日、右取引の証拠金二四〇万円を支払った。

(三) 原告は、同月二日、被告会社を訪ね、C及びDから、商品先物取引の仕組み等について説明を受けた。

(四) 原告は、同月六日、被告会社を通じて、粗糖二〇枚の買建玉を注文し(一覧表4の買付)、被告会社に対し、同月一四日、右取引の証拠金一二〇万円を支払った。

(五) 粗糖の相場は、原告が取引を始めてから値上がりを続けていたが、同月六日に下がり、同月七日には急落し、一円五〇銭安のストップ安となった。

(六) 原告は、同月八日、被告会社を通じて、買二〇枚分を手仕舞い(一覧表4の売付)、他方、粗糖五〇枚の売建玉を注文し(一覧表5-1の売付)、売・買各五〇枚につき両建状態となった。

原告は、被告会社に対し、同年五月六日、右取引の結果不足した証拠金の内金として一〇〇万円を支払った。

(七) 原告は、同年四月九日、被告協会に対し、被告会社との取引について、電話で相談した。

(八) 原告は、同年五月七日に、売・買各三〇枚、同月一〇日に、売・買各五枚を同時に外した(一覧表5-1の買付、2の売付、5-2の買付、3-2の売付)。

原告は、被告会社に対し、同月一二日、これまでの取引の結果不足することとなった証拠金として、三六万円を支払った。

(九) 原告は、同年六月二二日、被告会社を通じて、売五枚を手仕舞い(一覧表5-3の買付)、八枚の買建玉を注文し(一覧表5-6の買付)、同年七月二三日、これを手仕舞いした(一覧表5-6の売付)。

原告は、被告会社に対し、同年八月四日、右取引の証拠金として五一七六円を支払った。

(一〇) 原告は、同年七月二七日、被告会社を通じて、買三枚を手仕舞い(一覧表1-1の売付)、同月二九日には、買二枚・売一枚を同時に外した(一覧表1-2の売付、5-4の買付)。

(一一) 原告は、平成六年四月二一日、被告会社を通じて、原告名義の建玉すべてにつき決済した(一覧表1-3の売付、5-5の買付)。

(一二) 原告は、被告会社から、同年五月九日、五三万二八〇一円の返還を受けた。

3  被告協会のパンフレットの両建についての記載

被告協会は、被告会社ら会員に対し、顧客への交付を義務付けている商品先物取引・委託のガイド(甲一、以下「ガイド」という)に、両建について、「同一商品・同一限月の売り玉と買い玉を同時期に建てておくことをいいます。例えば、建玉の値洗いが損になってもすぐに仕切らず、反対の建玉をすることによって、その後の相場の変動による損失の増大を帳消しにしておき、適当と思うときに一方を反対売買して残った玉により、利益を得ようとする目的等で行う取引の方法をいいます。ただし、両建をするときには新たな資金や手数料が必要となり、また、いつ両建をはずすかが難しいので、難平と同様にしっかりとした相場観と適切な判断力が必要とされます」との説明を掲載している(甲一)。

二  争点

1  断定的判断の提供の有無

(原告の主張)

(一) 被告会社又はその担当社員には、顧客に対し、利益が生じることが確実との誤解を生じさせるような断定的判断を用いて、商品先物取引を勧誘してはならない注意義務がある(商品取引所法九四条一号、受託契約準則二三条(2)、取引所約款に定める禁止事項一、なお受託契約準則等については本件取引後に改正がなされているが、いずれもその内容に変更はないので、便宜上改正後の条文を摘示する)。

(二) しかるに、C、Dは、原告に対し、以下のとおり、断定的判断を提供した。Cらの以下の勧誘行為は、右(一)に違反し、違法である。

(1) C及びDは、原告に対し、平成五年三月二九日、「今、粗糖が上がっています。すぐ買えば儲かります」と勧誘した。

(2) C及びDは、原告に対し、同年四月二日ころ、被告会社において、「今回は上がる一方ですから、追い証がかかるということは、今回の取引では絶対にありません」と説明し、Cは、「これから粗糖はずっと上がりますから、他にお金があるなら、全部これに投資しませんか。絶対に損はしません」と勧誘した。

(3) Cは、原告に対し、同月六日、「もっとお金があればもっと儲かるんです。何とかどこからかお金をもってこれませんか」「必ず儲かりますから、全財産をつぎ込んでもいいくらいです」と勧誘した。

(被告会社の主張)

C及びDは、原告との取引に際し、「必ず儲かる」等という断定的判断を提供したことはない。むしろ、C及びDは、原告に対し、商品先物取引の危険性を十分に説明している。仮に、CやDが値上がりする見込みを話したとしても、あくまでCやDの予測に過ぎず、断定的判断の提供にはあたらない。

2  適格取引義務違反の有無

(原告の主張)

(一) 被告会社又は担当社員には、先物取引の危険性に鑑み、顧客の資力、経験、知識、理解力等に適した取引を勧めるべき注意義務がある(受託業務に関する規則五条(1))。

(二) しかるに、被告会社又はC及びDは、原告に対し、その資力が十分ではなく、また、先物取引の経験がないにもかかわらず、先物取引を勧誘しており、右勧誘行為は、右(一)の注意義務に違反し、違法である。

3  新規委託者保護管理規則違反の有無

(原告の主張)

(一) 被告会社又はその担当社員には、新規の委託者に対し、過大な建玉枚数の取引をさせてはならない義務がある(受託業務管理規則六条(3))。

(二) しかるに、被告会社又はC及びDは、原告に、取引開始日(平成五年三月三〇日)に五〇枚の取引をさせ、その九日後(平成五年四月八日)には一〇〇枚の取引をさせている。被告会社あるいはC及びDの右行為は、右(一)の注意義務に違反し、違法である。

(被告会社の主張)

取引開始後九日後一〇〇枚の建玉をしたのは、粗糖相場の急落により、ストップ安になったため、両建にして模様眺めをするためである。したがって、右行為は、なんら違法ではない。

4  無意味な反復売買の有無

(一) 被告会社又はその担当社員には、顧客に無意味な反復売買をさせない注意義務がある(商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項2(1))。

(二) しかるに、被告会社又はC及びDは、手数料稼ぎを目的として、原告をして、以下のとおり反復売買をさせた。右売買は、右(一)の注意義務に違反し、違法である。

(1) 平成五年四月六日の買いを二〇枚建てて、二日後その買いを二〇枚仕切って、同時に売りを五〇枚建てた。

(2) 同年五月七日、三〇枚の売りを仕切ると同時に、買いを三〇枚仕切った。

(3) 同月一〇日、五枚の売りを仕切ると同時に、買いを五枚仕切った。

(4) 同年六月二二日、売りを五枚仕切って、その日のうちに八枚の買いを建てた。

(5) 同年七月二九日、一枚の売りを仕切ると同時に、買いを二枚仕切った。

(被告会社の主張)

原告の売買は、以下のように必要性、合理性があり、無意味ではない。

(一) 平成五年四月八日に二〇枚仕切ったのは、相場のストップ安により、原告の証拠金がほとんどなくなるくらいの損失が出たため、損切りしたことによる。また、五〇枚の売りも、両建にして模様眺めをしたことによる。

(二) 同年五月七日に三〇枚の売り、買いを仕切ったのは、原告が証拠金の一部を用意できないため、証拠金の範囲内での取引にするためになされたものである。

(三) 同月五月一〇日に五枚の売り、買いを同時に仕切ったのは、原告の不足証拠金を減らすためになされたものである。

(四) 同年六月二二日に売りを五枚仕切り、八枚の買いを建てたのも、同年七月二九日に売り一枚を仕切り、二枚の買いを建てたのも、下落した相場が上昇に転ずると予想して、売りを減らし買いを増やし、勝負に出たことによる。

5  両建への勧誘の違法性の有無

(原告の主張)

(一) 両建をしても、既に損失は確定しており、損失額は損切りする場合と異ならない。また、両建をしても、損切りのうえ新規建玉をしても、手数料は異ならない。かえって、両建には、損切り・新規建玉に比し、以下の不利益な点がある。

(1) 両建をすると、玉を建てている以上、いずれはこれを外さざるを得ず、「売り」「買い」の予想を余儀なくされ、往々にして、新たに売り・買いいずれの建玉を行うべきかの決断を迫られる時期が早くなる。

(2) 両建により、損失の発生を後日に繰延べることができるとしても、損切りの場合よりも、多くの資金が必要となる。

したがって、両建は、損切り・新規建玉の方法と比較して有害無益であり、被告会社又は担当社員には、両建を勧誘しない注意義務がある(商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項2(2))。

(二) しかるに、被告会社又はDは、原告を両建に勧誘し、平成五年四月八日、売り五〇枚、買い五〇枚の両建をさせた。右勧誘行為は、右(一)の注意義務に違反し違法である。

(被告会社、被告協会の主張)

(一) 両建は、先物取引の手法の一つである。相場の下落等により、損失が生じた場合、損切りをして新規建玉をするのか、あるいは損失を確定させないで取引を継続し、後日相場の反転により両建を外すかの方法の選択の違いであり、両建自体が違法となるものではない。また、以下の点に照らし、両建は、損切り・新規建玉と比して有害無益ではない。

(1) 両建をすれば、相場の模様眺めをすることができ、両建には、冷静な状況で以後の取引ができるという利点がある。

(2) 両建の際、証拠金は必要であるものの、取引終了後には返還される。むしろ、損切りすれば、直ちに差損金を支払う義務が生ずる。

(3) 両建の際、手数料が必要であるが、損切り、新規建玉をした場合でも同額の手数料が必要である。

(二) また、両建に際し、Dはアドバイスはしたものの、最終的には、原告の判断によってなされたものである。

6  薄敷の違法性の有無

(原告の主張)

(一) 被告会社又はその担当社員には、翌営業日の正午までまでに証拠金を徴収すべき注意義務がある(商品取引所法九七条一項、受託契約準則九条)。

(二) しかるに、被告会社又はCあるいはC及びDは、右義務に従い証拠金を徴収しておらず、その行為は違法である。

7  被告協会の責任について

(原告の主張)

両建は、有害無益であるから、ガイドに、両建が一定の有効な手段であるかのような記載をすることは、不当、違法なものである。

被告協会は、右パンフレットを通じて、原告において、無意味な両建を一定の有効な手段であると誤信させ、本件取引において、原告に両建をさせており、不法行為責任を負う。

(被告協会の主張)

右ガイドの記載は、両建の意味を説明したものに過ぎない。また、両建という方法を選択する際の注意を促す記載もしている。

したがって、右パンフレットの記載が、不当、違法とはいえない。

8  損害等について

(原告の主張)

(一) 本件取引による損失

原告は、被告会社に対し、以下のとおり、証拠金として合計五五六万五一七六円を預託した。

平成五年三月三〇日 六〇万円 同年四月六日 二四〇万円

同年四月一四日 一二〇万円 同年五月六日 一〇〇万円

同年五月一二日 三六万円 同年八月四日 五一七六円

ただし、原告は、被告会社から、平成六年五月九日、五三万二八〇一円の返還を受けた。したがって、原告の本件取引による損失は、五〇三万二三七五円である。

(二) 弁護士費用

本件訴訟の弁護士費用は、四〇万円が相当である。

なお、右合計五四三万二三七五円のうち、三五万円(両建による手数料)は、被告協会の不法行為と相俟って生じたものであるから、原告は、被告両名により、三五万円の損害を、被告会社単独で五〇八万二三七五円の損害を受けた。

(被告の主張)

原告は、被告会社の担当者から商品先物取引の仕組みや危険性について説明を受けているので、その過失は大きく、過失相殺がなされるべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(断定的判断の提供の有無)について

1  商品先物取引は、基本的には、自己責任の原理に立脚する取引であるが、利益が生ずることが確実であるとの誤解を生じさせるような断定的判断を提供して顧客を勧誘することは、商品取引所法九四条一号、受託契約準則二三条(2)、取引所約款に定める禁止事項一により禁じられているところであって、商品取引員の勧誘内容、委託者の商品先物取引の知識、経験等に照らし、委託者の自主的な判断を阻害するような断定的判断の提供があった場合には、違法の評価を受けると解するのが相当である。

2  これを本件についてみると、確かに、証拠(原告本人3丁表、5丁表、10丁裏~11丁表、13丁裏~14丁表)によると、Cは、原告に対し、同月二九日から四月六日にかけて、「現在粗糖が上がっており、必ず儲かる」「粗糖は変動が少なく素人にも扱いやすいものである」「粗糖は一本調子で上がっており、他にお金はありませんか、必ず儲かる」等と勧誘した事実が認められ、右認定に反する証人Cの証言は、右証拠に照らし採用できない。

そうすると、Cの右勧誘は、原告に、商品先物取引をすれば、確実に利益を取得できるとの誤解を与えかねないものであったとも考えられる。

しかしながら、後掲各証拠によると、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 原告は、平成五年三月二九日に、C及びDの来訪を受け、ガイド、受託契約準則、危険開示告知書を受領し、ガイドに基づき、商品先物取引について説明を受け、商品先物取引の危険性を了知し自己の責任と判断で取引をなす旨の約諾書(乙三)を被告会社に提出した(乙三、原告本人2丁表、続行7丁裏~8丁表、証人C2丁表~3丁裏、10丁裏~12丁表、証人D2丁表~3丁裏)。

(二) さらに、原告は、右同日又は同年四月二日、Dからガイドに線を引かれる等して、商品先物取引の仕組みについて説明を受けた(証人D3丁裏~5丁裏、原告本人7丁裏~10丁表)。

(三) 原告は、右の説明を受けて、商品先物取引の仕組みについては、おおむね理解し、Cらの説明を聞いて、一〇〇パーセント儲かるとは考えていなかった(原告本人続行2丁表~4丁裏、続行9丁表~10丁表、続行17丁裏~18丁裏)。

(四) 原告は、C及びDから、キューバ、タイが減産していることを聞いたに過ぎず、秘密情報的なことは聞いていない(原告本人続行5丁~7丁表)。

3  右認定事実に争いのない事実等1(一)を併せ考慮すると、原告は、商品先物取引について理解する能力があり、商品先物取引の仕組み、危険性をおおむね理解しており、Cらから必ず儲かる旨勧誘を受けたとしても、右はCらの相場観を示したものであり、必ずしもその言葉通り儲かるものではないことを理解していたことが認められる。そうすると、Cらの勧誘が原告の自主的な判断を阻害したものとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、断定的判断の提供に関する原告の主張は採用できない。

二  争点2(適格取引義務違反)について

1  商品先物取引は、投資した金額を下回る損失が生ずるおそれがあり、いわゆるハイリスク・ハイリターンの取引である。したがって、商品先物取引業者が、取引を勧誘するに際しては、勧誘の相手方に取引を行う適格、すなわち委託者の取引の仕組みに対する理解力あるいは取引の資力等の有無を検討し、委託者に適した方法で勧誘すべき注意義務があると解するのが相当である。

2  これを本件についてみると、確かに、証拠(証人C続行20丁表~21丁裏、同D24丁表~29丁裏)によると、C及びDは、原告の資力等を十分に調査せずに、本件各取引に勧誘した事実が認められる(なお、乙二一には、原告の資産状況等が記載されているが、その内容が原告本人尋問の結果と齟齬しており、十分に調査して作成されたか疑わしく、採用できない)。

しかしながら、証拠(甲一四、原告本人尋問6丁表、13丁表~14丁表、24表裏丁)及び前記一2で認定した事実によると、①原告は、本件取引の前に、CあるいはDからガイド等によって商品先物取引の仕組み及び危険性を説明され、原告もおおむねこれを理解していた、②原告は、本件取引当時、預金、財形貯蓄、投資信託等の資産を有しており、本件証拠金を調達できる資力を有していたことが認められ、これに反する証拠はない。そうすると、原告は、前記争いのない事実等1(一)の事実を考え併せると、商品先物取引の仕組み等に対する理解力もあり、また、本件取引を行うことのできる資力を有していたものと認められ、商品先物取引を行う適格性がなかったとはいえない。

したがって、適格取引義務の違反に関する原告の主張は採用できない。

三  争点3(新規委託者保護管理規則違反の有無)について

1  甲一四号証によると、被告協会は、自主ルールとして、新規委託者保護管理規則により、「商品先物取引の経験のない委託者等については、三か月間の保護育成期間を設け、右委託者の建玉枚数を二〇枚とし、右委託者から右枚数を超える建玉の要請があった場合には、管理担当者が審査を行い適否を判断し、妥当と認められる範囲内において受託するもの」と定め、被告会社でも右同様の基準を設けていたことが認められる(証人D35丁-2表裏)。

確かに、右基準は、業界内部の基準であり、右基準に違反したとしても、直ちに違法と評価されるものではない。しかしながら、右基準の趣旨は、商品先物取引の投機性が高いことに鑑み、新規委託者に慎重に適格判断をさせることにより、委託者に不測の損害を被らさないよう保護することにあるから、右基準に違反した結果、委託者の能力、取引の経過等を考慮して、社会的相当性を逸脱したと認められる場合には違法の評価を受けると解するのが相当である。

2  これを本件についてみると、原告と被告会社との間の取引経過は、前記争いのない事実等2のとおりで、後掲各証拠によると、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 本件取引は、平成六年四月二一日の売建玉一〇枚、買建玉九枚(一覧表3-3の売付、5-5の買付)を除いて、いずれもDあるいはCの勧誘に従ってなされたものである(原告本人3丁表、5丁表、10丁裏~11丁表、13丁裏~14丁表、25丁裏~26丁表)

(二) Dは、二〇枚以上の注文があっても、被告会社の審査を受けておらず、原告との取引においても、十分な審査を受けなかった(証人D35丁-2裏~36丁表、63丁裏~64丁表)。

(三) 被告会社は、平成五年三月三〇日(原告が初めて買玉を注文した翌日)、粗糖合計四〇枚の買玉を建てているが、原告の意向を全く無視したものではないにせよ、その納得を十分得たものではない(原告本人11丁裏~12丁裏)。

なお、証人C及び同Dは、同日、原告から被告会社に合計四〇枚の買建玉の注文があり、その資金の打ち合わせのために、同日、原告が被告会社を訪れた旨証言する(証人C13丁裏~15丁表、続行22丁裏~23丁裏、同D6丁裏~7丁表)。しかしながら、C及びDの受注に関する証言が暖昧であり、また、Dあるいは店長のEが受注したのであれば、当然、担当者に連絡されてしかるべきであるのに、受注者と担当者との間で連絡がなされたことを認めるに足りる証拠はない(証人C続行22丁裏~24丁表、証人D34丁表裏、36丁裏~37丁表)。また、原告が四〇枚の証拠金を入金したのは、同年四月六日で、注文をしたとされる日からかなり経過しており、原告は、財形貯蓄を解約したり、親から借金して右四〇枚の証拠金を調達しており、自由な手持資金を有していなかった(原告本人13丁表裏)。そのうえ、原告が、商品先物取引の経験がなかったにもかかわらず、粗糖の相場が上げ基調とはいえ、初めて注文した翌日、直ちに四〇枚もの大量の買建玉を注文するとは考え難い。したがって、証人C及び同Dの右証言は、採用できない。

3  そうすると、原告の建て玉のうち新規建て玉は、全て三か月の新規委託者保護期間中になされたものであるところ、被告の担当者は、原告に商品先物取引の経験がないのに、取引開始日(平成五年三月三〇日)に、新規委託者保護管理規則上許容された枚数を大きく上回る合計買い五〇枚を建てさせたうえ、そのわずか九日後(同年四月八日)には売り五〇枚を建てさせ、売り・買い五〇枚合計一〇〇枚の建玉を建てさせたものであるばかりか、その取引には、同年三月三〇日の四〇枚の買玉のように、原告の十分な納得を得たとまではいい難いものもあって、被告の担当者の勧誘は、取引全体にわたって、新規委託者保護管理規則に著しく違反し、明らかに右規定の趣旨に悖るものといわざるを得ないから、全体として、社会的相当性を逸脱し違法というべきである。

この点、被告会社は、平成五年四月八日に売り五〇枚を建てて合計一〇〇枚の建玉になったのは、両建にしたことによるもので違法性はない旨主張するところ、確かに、両建をすれば損失が固定されるものの、手数料を負担せざるをえない点において新規の建て玉と変わらないばかりか、両建には後記のような問題点があるから、被告会社の右主張は採用できない。

三  争点3(無意味な反復売買)について

確かに、争いのない事実等2(四)(六)(八)(九)(一〇)によると、いずれも反復して売買がなされていることを認めることができる。

しかしながら、右売買は、いずれも、およそ一か月に二回程度の割合でなされているに過ぎず、かえって、証人Dの証言(証人D9丁裏~11丁、13丁裏~15丁表、17丁表裏)によると、右売買は、主に、取引の過程で原告の証拠金が不足したため、証拠金の範囲内に取引を縮小する目的でなされたものであることが認められ、本件全証拠によっても、右売買が手数料稼ぎを目的とするものとは認められない。

四  争点4(両建への勧誘の違法性)について

1  争いのない事実等2(六)及び証拠(証人D9丁裏~10丁表、原告本人20丁表~21丁表)によると、原告は、Dの勧誘により、平成五年四月八日、売り五〇枚を建てて(一覧表5-1)、売り五〇枚・買い五〇枚の両建状態としたことが認められる。そこで、Dの右両建への勧誘が違法かどうか検討する。

2  両建とは、同一商品・同一限月の売り玉と買い玉を同時期に建てておくことをいい、建玉の値洗いが損になっても、すぐに仕切らずに、反対の建玉をすることにより、その後に相場の変動による損失の増大を帳消しにしておき、適当と思うときに、一方の建玉を仕切り、残った建玉により利益を得ようとする目的で行う取引方法をいう。

両建をすると、一方の建玉による損益は、他方の建玉による損益によって帳消しとなるため、損益は固定されることになるから、この点において、両建は、損切りと同じ効果をもつ。

しかしながら、一枚あたり六万円の委託証拠金を要する取引において、買い玉を一〇枚建てていたが、値下がりしてきた場合を念頭に置いて、①損切りをして様子を見た後、新規に売り一〇枚の建玉をする方法と、②両建をして様子を見た後、買い一〇枚を仕切って売り一〇枚の建玉を残した方法とを比較してみると、両者の間には、次のような差異を認めることができる(別紙「損切りと両建の比較」参照)。

(1) ①の方法では、委託証拠金は、新規建玉をする段階で初めて必要となり、当初の損切りの段階では不要であるのに対し、②の方法では、当初の両建の段階で、反対建玉のための委託証拠金が必要となる。

(2) ①の方法では、損切りの段階までに生じた差損金の額(売買差損のほか当初の買い玉の手数料等〔取引税・消費税を含む。以下同じ〕の額を含む。以下同じ)が、当初の買い建玉の際に預託した委託証拠金の額である六〇万円の範囲内にある場合、新たな資金は必要なく、その差額について委託証拠金の返還を求めることができるのに対し、②の方法では、両建の段階までに生じた売買差損の額が、その時点における委託証拠金の半額である六〇万円の範囲内にある場合、追い証は不要で、新たな資金を準備しなくてもよいが、資金の返還を受けることはできない。その結果、右の場合、①の方法による方が、②の方法によるより、準備すべき資金が少なくなる。

(3) ①の方法では、差損金の額が六〇万円を超えれば、その差額について決済資金が必要となるが、②の方法では、売買差損の額が六〇万円を超えれば、六〇万円単位で追い証が必要となる。

(4) 損切りをすれば、その後、手仕舞いをするためには、何らの資金も要しないが、両建をすれば、手仕舞いをするために、両建時に反対建玉の委託証拠金を必要とするほか、反対建玉を仕切るための手数料等が、①の方法に比べて余計に必要となる。したがって、様子見をした後、手仕舞いをするのであれば、両建の方法は、損切りの方法に比べて経済的負担が大きくなる。

以上によれば、②の方法は、①の方法に比べて、経済的に不利益を伴う場合が多く、有利な点を見い出し難い。ただ、顧客が、取引員から両建の意味や機能について十分な説明を受け、両建には損切りに比べて不利益な点があることも承知しながら、あえて両建を選択した場合においてまで、両建の勧誘を違法とする必要はない(両建をした場合、損切りをした場合に比べて、前述のように経済的に有利な点は見い出し難いものの、相場や取引についてより強い関心を維持できるという心理的効果を期待できなくはない。そうすると、前述のような両建の不利益性を十分承知したうえであっても、右のような心理的効果に着目し、損切りに比べて経済的不利益が大きくない場合において、両建を選択することも、十分に考え得ることである)。

したがって、両建の勧誘を一律に違法であるということはできないが、取引員が顧客に対して両建を勧誘する場合においては、顧客の習熟度や理解度に応じて、前記1ないし4のような損切りと両建の差異も含めて、両建の意味や機能を十分に説明することが必要であり、そのような説明を欠いた両建の勧誘は、違法と解するのが相当である。

3  これを本件についてみると、(一)原告は、両建をする前、Dから、ガイドの記載に沿って説明を受け、両建とは損失の増大を帳消しにする手法であると理解していた(原告本人9丁裏~10丁裏)、(二)原告は、平成五年四月八日に粗糖がストップ安となった際、Dに損切りを頼むと、Dから「仕切る方法もあるが損害が出て終わってしまうので、両建という方法があり、これなら残っている買いの数が生きる」旨の説明を受けた(原告本人続行20丁裏~22丁表、証人D9丁裏、60丁表)とは認められるが、Dが原告に対し、前記2(1)ないし(4)のような損切りと両建の差異について説明したと認めるに足りる証拠はなく、右認定のような原告の理解とDの説明だけでは、損切りに比べて両建の方が経済的に不利益な場合があることについて、原告の十分な理解を得るだけの説明があったということはできない。

なお、証人Dは、両建に際し、原告が損切りしたいと言っておらず、損切りがいやだというので、両建を勧め、必要な金額を伝えた旨証言するが(45丁裏~46丁表、59丁~60丁表)、前記認定のように、原告は、両建とは損失の増大を帳消しにする手法である旨の説明を受けたに過ぎず、かつ先物取引を開始してわずか一〇日足らずで、また十分な資金を有していないことを考えると、損切りをしたいと考える方が自然であり、証人Dの右証言は採用できない。

そうすると、Dの原告に対する両建の勧誘は、違法である。

六  争点6(薄敷)について

商品取引所法九七条、受託契約準則九条によれば、商品先物会社又はその担当社員には、翌営業日の正午までに委託証拠金を徴収すべき注意義務がある。

しかるに、争いのない事実2(二)(四)(六)(八)(九)によると、被告会社は、原告から注文があったとき、委託証拠金をいずれも翌営業日までに徴収しておらず、右義務に違反している。

しかしながら、委託証拠金は、主として商品仲買人が委託者に対して取得する委託契約上の債権を担保するためのものであるから、商品仲買人が委託証拠金をその都度徴収することなしに商品市場における売買取引をなしたとしても、右商品仲買人と委託者との間の契約及びこれに基づく法律関係の効力に影響を及ぼすものではない(最高裁判所昭和四二年九月二九日第二小法廷・判例時報五〇〇号二五頁参照)。委託証拠金は、委託者において過当な取引に出ることを抑制する機能を有しているが、これは、あくまで間接的な機能にとどまるものである。

そうすると、被告会社が原告から委託証拠金を徴収しなかったとしても、これをもって、直ちに違法とはいえない。

七  争点7(被告協会の責任)について

1  被告協会は、争いのない事実等3のとおり、ガイドに両建に関する記載をしている。

そこで、被告協会の右記載が違法かについて検討する。

2  前記四で認定したように、取引員が委託者に対し、両建の意味、機能、危険性等を十分に説明し、委託者がこれを十分に理解したうえで両建を選択した場合でない限り、両建への勧誘は違法と解するのが相当である。そうすると、委託者に交付するパンフレット等の作成者は、委託者が両建の意味、機能、危険性等について誤解しないような記載をする義務があるというべきである。

3  これを本件についてみると、確かに、被告協会のガイドの両建についての記載は、損切りした場合との比較(例えば、損切りと同様に、損失を固定するに過ぎないこと、損切りに比し、多くの資金が必要となる場合が多いこと)について、十分な記載があるとは認め難い。しかしながら、ガイドには、両建の意味、機能について一般的な記載がなされているだけであって、両建を有用な取引方法として宣伝する記載はなされていないばかりか、両建には新たな資金や手数料が必要となり、両建を外す時期が難しい旨の注意事項をも記載しているのであるから、委託者が両建の意味、内容、危険性等を誤解するような記載をしたとはいえず、違法とはいえない。

八  損害及び過失相殺

1  前記二、四で認定したように、D及びCの行為は、新規受託者保護義務に違反し、かつ両建への勧誘に違法があるから、全体として違法で、不法行為を構成し、被告会社は、七一五条により、使用者責任を負う。

そこで、原告の損害を検討するに、本件取引開始から三か月以内の取引によって生じた損失は、五〇三万二三七五円と認められる(原告が被告会社に支払った委託証拠金の合計五五六万五一七六円から原告が返還を受けた五三万二八〇一円を差し引いた額)。

2  もっとも、商品先物取引は自己責任の原則に立脚してなされるものであり、原告も、CあるいはDの言葉を信じて二〇枚を超える玉を建て増しし、また、平成五年四月八日の時点で両建をせずに、直ちに手仕舞いをしていれば、損害の拡大を防止することができたはずであり、この点原告にも相当な過失があったというべきである。

そこで、本件記録から窺える一切の事情を考慮すれば、約五割の過失相殺をするのが相当であるから、被告会社は原告に対し、過失相殺後の損害二五〇万円にその一割に相当する弁護士費用二五万円を加えた二七五万円を賠償すべきである。

第四結語

以上によると、原告の被告会社に対する請求は、二七五万円及び平成五年八月四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告会社に対するその余の請求及び被告協会に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤嘉彦 裁判官 村田龍平 裁判官 横田昌紀)

<以下省略>

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